公務員の職場では、昼休みに保険営業の担当者が出入りしている光景をよく見かけます。
「団体割引」「公務員限定」といった言葉に惹かれて、つい契約してしまう人も多いものです。
しかし実際には、公務員は共済組合を通じてすでに非常に手厚い保障を受けています。
医療保険や生命保険を重ねて契約すると、ほとんどの場合「払いすぎ」になります。
この記事では、まず公務員がすでに受けている公的保障の内容を、厚生労働省・全国共済組合連合会・日本年金機構などの一次情報をもとに整理します。
保険の基本:確率は小、損失は大に備える
保険の本質は、「滅多に起きないが、起きると家計が破綻するリスク」に備えることです。
火災・死亡・高度障害など、発生確率は低いが損失が大きい事象が対象。
一方で、風邪や軽い入院のような「頻度が高いが損失の小さい支出」は貯金で対応するのが基本です。
保険=確率の低い大損に備える
貯蓄=頻度の高い小損に備える
この原則を理解しておくだけで、不要な保険料を減らせます。
日本の医療制度は、すでに世界最高クラスの「保険」
日本は「国民皆保険制度」により、全員が何らかの医療保険に加入しています。
公務員の場合は「共済組合」がその保険者にあたり、民間サラリーマンの健康保険組合と同等かそれ以上に保障が厚い仕組みです。
- 医療費の自己負担は原則3割
- 高額療養費制度による上限あり
- 共済組合独自の付加給付でさらに軽減
つまり、公務員はすでに世界トップレベルの医療保険に加入しているのです。
高額療養費制度:月数万円で頭打ちになる仕組み
高額療養費制度とは、1か月の医療費が一定額を超えた場合、超過分が払い戻される仕組みです。
これにより、どんなに高額な医療を受けても、自己負担は所得に応じた上限までで済みます。
(出典:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」)
69歳以下の自己負担上限(2025年現在)
| 年収区分 | 自己負担上限(月額) | 医療費100万円の場合 |
|---|---|---|
| 約1,160万円以上 | 252,600円+(医療費−842,000円)×1% | 約267,000円 |
| 約770~1,160万円 | 167,400円+(医療費−558,000円)×1% | 約174,820円 |
| 約370~770万円 | 80,100円+(医療費−267,000円)×1% | 約87,430円 |
| 約370万円以下 | 57,600円 | 57,600円 |
| 住民税非課税世帯 | 35,400円 | 35,400円 |
また、同一世帯で過去12か月以内に3回以上この制度を使うと、4回目以降は負担上限がさらに低くなる「多数該当」制度もあります。
長期入院しても月数万円で済む仕組みが整っています。
共済組合の「付加給付」でさらに軽減
共済組合には、健康保険よりも手厚い「付加給付」制度があります。
これは高額療養費制度の自己負担分から、さらに一定額を控除した金額を共済が補填してくれる制度です。
(出典:東京都職員共済組合・横浜市共済組合・地方職員共済組合・公立学校共済組合)
共済組合の例
| 共済組合 | 給付内容 | 実質自己負担 |
|---|---|---|
| 東京都職員共済 | 自己負担限度額から50,000円(100,000円)を控除して給付 | 約50,000円(100,000円) |
| 横浜市職員共済 | 自己負担限度額から25,000円(50,000円)を控除して給付 | 約25,000円(50,000円) |
| 地方職員共済 | 自己負担限度額から50,000円(10,000円)を控除して給付 | 約50,000円(100,000円) |
| 公立学校共済 | 自己負担限度額から25,000円(50,000円)を控除して給付 | 約25,000円(50,000円) |
( )内の数字は、上位所得者(標準報酬月額が53万円以上)の場合の金額を示しています。
このように、公務員は実際の医療費負担が月2〜5万円に抑えられるケースが大半です。
医療保険で「1日5,000円もらえる」と言われても、そもそも支出がそれ以下なら保険料の方が高くつきます。
※附加給付の内容は共済ごとに異なります。所属組合の最新の給付規程を必ず確認してください。
(参考:東京都職員共済組合・横浜市共済組合・地方職員共済組合・公立学校共済組合)
付加給付でもカバーされないもの(自由診療・差額ベッドなど)
共済の付加給付はあくまで「公的医療保険の対象部分」に限られます。
次のような費用は補助対象外です。
・差額ベッド代(個室料などの選定療養)
・食事代(標準負担額あり)
・保険外併用療養(先進医療等)の技術料部分
・交通費・付き添い費などの雑費
「保険に入ればすべて安心」という誤解は危険です。
保険でカバーできる範囲とできない範囲を分けて考えることが大切です。
先進医療特約は“名前負け”している
先進医療とは、保険適用前の段階で安全性や有効性を検証中の医療です。
厚生労働省のデータ(令和5年7月〜令和6年6月)によると、先進医療を受けた患者は全国で約17万人。
外来・入院患者延べ数(約8億回と推計)と比べても、ごく限られたケースです。
名前は「先進的」ですが、実際には一部の症例に限られた医療であり、過度に心配する必要はありません。
休職時も無収入ではない:共済の傷病手当金制度
民間企業では、長期病気休職になると給与が止まる場合もありますが、公務員には共済の「傷病手当金制度」があります。
給与が減額または無給になった場合、報酬の3分の2(約67%)が支給されます(上限1年6か月、結核は3年)。
給与が支払われている場合はその分を調整されるため、完全な無収入にはなりません。
これにより、公務員は病気や入院でも生活が一気に崩れるリスクが小さくなっています。
(参考:東京都職員共済組合・地方職員共済組合・公立学校共済組合)
まとめ:公務員はすでに“多層的な保障”に守られている
| 区分 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 医療費 | 高額療養費+共済付加給付 | 実質月2〜5万円 |
| 所得補償 | 傷病手当金 | 報酬の67%、最長1年6か月 |
| 休職時 | 給与と手当の併用 | 無収入リスク小 |
| 障害・死亡 | 公的年金(厚生+基礎) | 共済の長期給付もあり |
| 退職後 | 年金払い退職給付・厚生年金 | 定年後も保障継続 |
つまり、公務員はすでに強固なセーフティネットの中にいます。
保険を検討する際は、「足りない部分を補う」という発想に切り替えることが大切です。
次の記事では、生命保険や医療保険が本当に必要なのか、共済制度や遺族年金を踏まえて具体的に考えます。
→ 【後編】公務員の保険はいらない?生命保険・医療保険の本当の必要性と営業の落とし穴【共済の仕組みも解説】


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