投資の税金はややこしく見えますが、仕組みと判断の順番を押さえれば迷いは減ります。
本記事では、特定口座の違い、配当の課税方式、損益通算と損失繰越、外国配当と外国税額控除を、公務員向けに“申告の要否の判断の軸”だけに絞って整理します。
e-Tax の操作手順や職場フローには踏み込まず、何を申告すれば手取りが増えやすいかに集中します。
投資と税金のつながり
投資のリターンは「運用成績 − 税金」で決まります。
同じ収益でも、申告のしかたで手取りが変わります。
たとえば——
- 配当は「総合課税」か「申告分離」かで税額が変わります
- 売却損や繰越損がある年は、配当と通算すると税負担を減らせます
- 外国株の配当は現地と日本の両方で課税されますが、外国税額控除で調整できます
つまり、申告しない=損とは限りませんが、
申告しないと取り戻せないお金がある
というのが投資と確定申告の関係です。
このガイドは、今年の自分の状況でどの申告を選ぶと手取りが増えるかを、迷わず判断できるようにするためのものです。
口座タイプの基本
証券会社で設定できる口座は大きく3種類です。
- 特定口座(源泉徴収あり)
- 特定口座(源泉徴収なし)
- 一般口座
このうち一般口座は、年間の売買損益や必要経費を自分で集計して申告書を作る必要があり、手間が非常に大きいため、初心者~中級者にはおすすめしません。
基本は特定口座のどちらかを選ぶ、で大丈夫です。
特定口座(源泉徴収あり)
証券会社が損益計算と納税(源泉徴収)まで自動で行います。
原則申告不要で完結しますが、配当の課税方式(総合/分離)を変えたい/損益通算をしたい年は、あえて申告して有利にできる場合があります。
特定口座(源泉徴収なし)
証券会社が損益計算書(年間取引報告書)は作ってくれますが、納税は自分で確定申告して行います。
配当方式の選択や損益通算の自由度は高い一方、申告の手間は発生します。
一般口座
損益の計算から証拠書類の保存、申告書作成まで全て自分で行います。
計算ミスのリスクや作業負担が大きく、特別な理由がない限り非推奨です。
参考までに、NISA口座はこれらとは別枠の非課税口座です。
売却益・配当とも申告不要ですが、課税口座との損益通算や損失繰越はできない点だけ押さえておきましょう。
損益通算と損失繰越
投資の確定申告において、損益通算と損失繰越は絶対に押さえておきたいポイントです。
損益通算は、その年の“利益(益)”と“損失(損)”を同じグループの中で相殺して、税金の対象を小さくする仕組みです。
損失繰越は、その年だけでは相殺しきれなかった“損”を翌年以降に持ち越して、将来の“益”とぶつけられる仕組みです(最長3年・毎年申告が条件)。
どこで使えるのか
株や投信などの上場株式等の世界では、
- 売却益・売却損どうし
- 売却損と配当等(※配当は「申告分離」を選ぶ)
といった同じ区分の中で損益通算ができます。
例:その年に「売却損30万円・配当20万円」の場合、配当を申告分離にして通算すれば、課税対象は0円、損失10万円は翌年以降へ繰り越せます。
なぜ大事なのか
同じ利益でも、通算や繰越を使えると税金の土台が小さくなる=手取りが増えるからです。
特に、相場の上下で損が出た年は、配当の扱い(総合/分離)も含めて“通算できる形”に整えることがポイントです。
ここだけ注意
- 繰越は連続して毎年申告することが条件です。1年でも切れると、その時点で権利が失効します。
- NISA口座の損失は、通算も繰越も不可です。通算・繰越を前提に設計したい年は、課税口座側で組み立てます。
この前提を押さえたうえで、「売却損がある年は配当を申告分離にして通算」「損がない年は総合と分離を数字で比較」という判断に進むと、迷いにくくなります。
配当の課税方式の選び方
配当は課税方式を自分で選べます。
選び方で手取りが変わるので、まずはこの3つだけ覚えてください。
・申告不要(源泉分離):そのまま終わりにする方法。
迷ったらこれでOK。ただし通算も配当控除も使えません。
・総合課税:給与などと合算して課税。
国内配当なら配当控除が使えます。売却損がない年で、配当が多め&年収が高すぎない人に有利になりやすいです。
・申告分離:株の売買益と同じ枠で課税。
売却損や繰越損がある年は、配当をここに入れて損益通算するのが基本です。
外国配当の外国税額控除とも相性が良いです。
最後は総合 vs 分離で手取りを簡単に比較して決めます。
ポイントは「損がある年は通算優先=分離、損がない年は総合も試算」
これで十分迷わず選べます。
総合課税と申告分離の目安
- 税率が低い年(所得税率 5〜10%):総合課税+配当控除が有利になりやすい
- 中間帯(20%前後):総合 vs 分離を“手取り”で試算して決める
- 税率が高い年(23%以上):申告分離(20.315%)が有利になりやすい
注意:
・外国配当がある年は、外国税額控除を使うため申告が前提です(総合でも分離でも可)。
・児童手当などの所得制限や住民税の扱いが変わることがあるため、最後は実額で比較して判断してください。
外国株・海外ETFの税金
外国の個別株やETFの取引にかかる税金を知っておくことも大切です。
配当は課題あり、売却益は原則シンプルです。
配当は二重課税になりがち
現地で源泉徴収されたうえで、日本でも課税されます。
確定申告で「外国税額控除」を使えば、日本側の税から差し引けます。
NISAの配当は日本では非課税ですが、現地源泉は基本戻りません。
売却益は原則日本だけで課税
多くの国は非居住者の株式売買益に源泉課税しないため、日本の申告分離課税のみで完結します。
つまり、二重課税は通常ありません。
海外籍ETFは注意点あり
海外籍ETFは、あなたに配当が支払われる前にファンド内部で現地課税がかかることがあり、その税はあなた名義の「外国税額」には載らず、外国税額控除の対象にできない(=取り戻せない)ケースが多いです。
代表例がアイルランド籍のUCITS系ETF(例:CSPX、VUSA、VWRAなど)です。
一方で、日本で人気の米国籍ETF(例:VOO、VTI、VT、QQQ、VYM、HDV、SPYDなど)は、あなた名義で米国源泉→日本でも課税という流れになるため、確定申告で外国税額控除を使いやすいのが利点です。
つまり、配当の税コストを下げたい目的なら、米国籍ETF(VOOやVTIなど)や個別株のほうが“取り戻せる余地”が見えやすいです。

NISA配当は日本非課税ですが米国分は原則戻りません
まずは、「配当=二重課税→申告で調整」「売却益=日本のみ」
という大枠だけ押さえておけば大丈夫です。
ケーススタディ
まず、損がある年かどうかで大きく分かれます。
ケース1:売却損50万円・配当20万円
その年に売却損が50万円あって配当が20万円なら、配当は申告分離にして損益通算するのが基本です。
課税対象が小さくなり、相殺しきれなかった残り30万円の損失は翌年以降に繰り越せます。
この繰越を活かすには、毎年申告を継続することが条件です。
ケース2:売却損なし・配当多め・年収中位
一方、売却損がなく配当が多めで、年収帯が極端に高くない場合は、総合課税(配当控除)と申告分離を手取りベースで比較してください。
多くのケースで、総合課税にしたほうが有利になります。
ただし、住民税の負担や各種所得制限(手当等)の判定に影響することがあるため、ここも含めて確認しておくと安心です。
ケース3:米国株の配当10万円
米国株の配当が10万円のように外国配当がある年は、確定申告を前提に総合/分離の両方で手取りを試算し、同時に外国税額控除を適用します。
米国で源泉された税の一部を日本側で取り戻せる可能性があるからです。
なお、NISAで受け取る配当は日本では非課税でも、米国分(約10%)は原則戻らない点だけは覚えておいてください。
ケース4:NISAと課税口座が混在
NISA口座と課税口座が混在している場合は、NISAは通算できないという前提で設計します。
つまり、損益通算や配当方式の最適化は課税口座側で集中して行い、翌年以降の繰越戦略まで見据えて調整します
NISAでの損失は通算も繰越も不可です。
まとめると、損がある年は「通算優先=配当は分離」、損がない年は「総合(配当控除)も含めて数字で比較」。
この順番で考えると、迷わず最適解にたどり着けます。
公務員の留意点
副業規定と住民税の扱いには必ず配慮してください。
「住民税だけ申告不要」を選べる特例運用は自治体差があります。
職場提出物や照会対応は各所属の指示に従ってください。
まとめ
申告しないほうが良い年もあれば、あえて申告したほうが得な年もあります。
損失がある年は通算優先(配当は分離)、損がない年は総合と分離を数字で比較。
外国配当は外国税額控除を検討し、NISAの現地源泉は戻らない前提で設計します。
毎年の見直しをルーティン化することで、手取りが増え、資産形成の底力になります。






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