前編では、公務員がすでに受けている「医療保障と所得補償」を整理しました。
高額療養費制度や共済の付加給付により、入院費用は月2〜5万円程度に抑えられ、傷病手当金によって収入も守られます。
つまり、公務員はもともと非常に強固な保障の中にいます。
後編では、「生命保険や医療保険をどう考えるか」について、制度の内容と実際の必要性を冷静に整理していきます。
生命保険は“必要な人”と“そうでない人”がいる
生命保険の目的は、自分が亡くなったときに「残された家族がお金で困らないようにすること」です。
したがって、必要かどうかは一律ではなく、家庭の状況によって違います。
| 家族構成 | 必要性の目安 | 主な理由 |
|---|---|---|
| 独身・子なし | ほぼ不要 | 経済的に困る人がいない |
| 共働き夫婦 | 基本不要 | 互いに収入がある |
| 子どもあり・貯蓄が少ない | 加入を検討 | 教育費・生活費を補う必要 |
| 子どもあり・貯蓄十分 | 加入は任意 | 貯蓄+遺族年金で対応可能 |
ポイントは「遺族年金の存在」です。
2015年の制度統合以降、公務員も厚生年金に統一され、民間と同じく遺族基礎年金+遺族厚生年金が支給されます。
遺族年金の金額例(2025年度)
- 遺族基礎年金:年額831,700円
- 子の加算:第1・第2子 各239,300円/第3子以降 各79,800円
(例:配偶者+子1人 → 年額約107万円)
これに厚生年金期間に応じた「遺族厚生年金」が加わり、合計で年150万円前後になるケースもあります。
もし子どもが成人するまでの生活費や教育費をすでに確保していれば、遺族年金と貯蓄で多くの家庭は十分に対応できるでしょう。
一方で、貯蓄が少ない家庭では、教育費の途中段階をカバーする目的で保険を活用するのも一つの方法です。
「慰め金」としての保険という考え方
生命保険は経済的な補償だけでなく、精神的な支えとしての側面もあります。
たとえば配偶者を亡くした直後、遺族は心身の負担が大きく、生活を立て直すにも時間がかかります。
そのような時期にまとまったお金が入ることが、精神的な余裕や安心感につながることもあります。
このように「残された人の心を支えるための資金」として少額の保険を持つことは、経済合理性だけでは測れない意味があります。
大切なのは、感情的な安心と経済的な備えを分けて考えることです。
医療保険は“仕組みを知ったうえで”判断を
公務員は共済組合によって医療費の自己負担が低く抑えられています。
そのため、多くのケースで「医療保険に入っても給付より支払いの方が多い」状態になりがちです。
たとえば月5,000円の医療保険に30年間入ると総額180万円。
一方で、高額療養費+付加給付により、入院費用が自己負担になるのは多くて数万円。
つまり、“出るより払う方が多い”構造になりやすいのです。
もちろん、保険で安心を買うという考え方もあります。
ただし、「どのリスクをどこまで自分で負うか」を知ったうえで、最低限の保障だけを選ぶのが現実的です。
先進医療特約は“名前に惑わされない”
「先進医療特約で安心」と言われることがありますが、先進医療とは保険適用前の評価段階にある治療で、まだ効果や安全性が確立されていないものです。
厚生労働省のデータ(令和5年7月〜令和6年6月)では、先進医療を受けた患者は全国で177,269人。
同時期の外来・入院延べ利用回数(病院ベース約8.6億回)と比べると、その割合はごくわずかです。
名前の響きほど“特別な医療”ではなく、実際に利用する人は限られています。
保険で備えるより、必要なときに実費で対応する方が合理的な場合もあります。
保険の「節税効果」は確かにある、でも小さい
保険営業では「保険料控除で節税になる」と言われることがあります。
たしかに、所得税や住民税の軽減は受けられますが、控除額はごく小さいことを理解しておきましょう。
生命保険料控除(新制度)
- 所得税:上限4万円
- 住民税:上限2.8万円
税率20%の人でも、(4万円+2.8万円)×20%=約13,600円の節税効果です。
控除が受けられるのは「その年に支払った分だけ」で、翌年に繰り越すこともできません。
一方で、保険料には販売手数料や運用管理費などのコストが含まれています。
長期的には、控除額よりも手数料の方が上回ることが多いのです。
節税目的で保険に入るより、同じお金をNISAやiDeCoで積み立てた方が、
将来の家計を強くする効果は大きいでしょう。
長期療養時の収入も共済で守られている
公務員には、地方・国家・公立学校いずれの共済にも「傷病手当金制度」があります。
給与が減額または無給になった場合、報酬の3分の2(約67%)が最長1年6か月(結核は3年)支給されます。
給与が支給されている期間は調整されるため、完全に無収入になることはほとんどありません。
つまり、長期療養でも生活が一気に崩れるリスクは低いのです。
公務員の職場に入り込む保険営業に注意
多くの公務員職場では、保険会社の担当者が「団体割引」「共済提携」などを名目に出入りしています。
昼休みに職場で面談している同僚を見かけたことがある人も多いでしょう。
営業トークではこう言われます。
- 「公務員限定の特別プランです」
- 「職員組合が推奨しているので安心ですよ」
- 「今なら保険料が安くなります」
しかし、内容をよく見ると共済や公的保障と重複しているケースが少なくありません。
「安心」を売りにした商品ほど、実は割高なことも。
契約前に一度、「その保障は共済ですでにあるか?」を確認してみましょう。
民間保険を持つなら、3つに絞る
どうしても不安が残る人や、特定のリスクにだけ備えたい人は、次の3つを中心に考えるのが現実的です。
- 定期の死亡保障:子どもが小さい時期限定で、掛け捨ての最低限プラン。
- 医療保険(簡易型):短期入院など、必要最小限に絞った内容。
- 就業不能保障(共済の補完):長期無給リスクだけを限定的にカバー。
これ以外の貯蓄型・外貨建てなどは、運用目的と混在しやすいため注意が必要です。
保険料を「投資」に変えるという発想
毎月1万円の保険料を30年払えば総額360万円。
これを年利4%で積み立てれば、将来は約690万円。
保険は「お金を減らさない仕組み」、投資は「お金を増やす仕組み」。
どちらが自分の価値観に合うかを考えて選ぶことが大切です。
投資を始めるなら、まずは少額から始められる非課税制度を理解しておくと安心です。
まとめ:制度を理解することが最も確実な節約
公務員は、共済組合・厚生年金・高額療養費制度など、すでに多層的な保障の中にいます。
そのうえで、足りない部分を民間保険で補うのは悪いことではありません。
大切なのは、「何を補うための保険なのか」を明確にすることです。
節税よりも、手数料よりも、まず“制度の中身を知る”。
それが、公務員という安定した立場を活かした、最も賢いお金の守り方です。




コメント